主催者の思い

研究家と音楽家のコラボレーション

北海道大学の大学院、国際広報メディア・観光学院(IMCTS)の博士課程に在籍し、音楽フェスティバルの主催者について研究している、山崎翔(やまさき しょう)と申します。

SAIHATE LINESは、研究者と音楽家がコラボレーションした、今までにない研究発表の場です。研究者は自分自身がどのように生きてきたのかを語り、音楽家はその話を受けて歌を奏でる。

両者の“協奏”が、グラフィックレコーディングという手法を用いて、リアルタイムで可視化されるイベントです。

フェスの「流動性」と研究人生

大きな狙いは、研究者が研究環境や自分の人生について再考する「場」を作ることです。

大学院博士課程への進学は、研究職志望、つまり大学で職を見つけることとイコールで見られがちです。

文系の場合、助成金・科研費を得ながら研究を続けるのが一般的な形です。自分の研究で利益を生み、生計を立てている人は、それほど多くはありません。

ただ、私はアカデミック・キャリアがすべてではないと思っています。自分で問いを立て、課題の解決方法を探ること。それを「研究」と呼ぶのであれば、研究職に就くことは研究を続ける上で必須条件ではありません。

研究者のキャリアについて、単線的な思考回路をあえて取っ払いたい。ヒントとなったのが、自分自身が研究対象としている「音楽フェス」でした。

音楽フェスの観客って、ライブ中でも会場内でビールを飲んだり、適当にその辺で寝ていたりする。主催者も、観客を1つの方向に進路づけるのではなく、その場その場に応じて行先を決めている。

特定のアーティストが特定の曲を演奏する「ライブ」と比較して、より流動的な性格が強い場です。

テーマを設定し、疑問をとことん掘り下げる「研究」は、意味の追求という性格が強い。しかし、その場の文脈に身を委ねることで、新しい視界が拓けてくることもあるのではないかと思っています。

「揺らぎ」の10年を振り返る

SAIHATE LINESには、自分自身の個人史も大きく関わっています。

学部を卒業してから現在に至るまでの10年間は、決して一直線ではなく、絶えざる揺らぎの中に身を置き続けていました。

もともと、大学学部時は地方紙の記者になりたいと思っていました。いくつかの新聞社を受けて、最終面接まで進んだのですが、結果的にはダメで。広報・ジャーナリズム、メディア文化、観光領域の専門大学院であるIMCTSの修士課程で学び、コンサルティング企業で約5年間、社会人として経験を積みました。

学部時代から都市計画・地域開発分野に関心があり、社会人時代は、まちづくり関連の調査などに多く関わっていました。

仕事は充実していたのですが、プロジェクトの多くは、テーマやアプローチの枠組みがあらかじめ決まっていました。自分の疑問を拠点に研究テーマや調査方法を設定できるアカデミックな研究環境との違いにジレンマを抱き、研究の世界に戻りたいと次第に考えるようになりました。

2014年、再び博士課程へ。大学院に戻ってみて感じたのは、研究環境の変化でした。創立から20年が経過し、教育プログラムや制度が充実する反面、異質な価値や人と遭遇する経路、蛇口が塞がりつつあるとも感じました。

そこで考えたのが、北海道大学の学内にある「遠友学舎」を使い、音楽を通じた研究者同士の新たな出会いの場を創造すること。

遠友学舎の名称は、男女共学の夜学校「遠友夜学校」(札幌市中央区南4条東4丁目※現在は新渡戸稲造記念公園)に由来します。札幌農学校卒業生で、教授である新渡戸稲造夫妻が、貧しくて教育を受けられない若者たちのため、1894年(明治27年)に開講した建物です。

立場や世代を越え、遠来の友が出会う学び舎だった学舎。北大に本来流れる自由な気風、オルタナティブな精神を継承し、革新するには、遠友学舎ほどふさわしい場はないと感じました。

当日は、厳密なプランニングは行いません。「この場所でこれをやってみたら面白そう」というアイデアやひらめきの元、その場で起こる偶然性を大切にしたい。また、その偶然性をつなげることに注力したいと思っています。

最果ての大地でどのような1日が展開するのか、乞うご期待ください。

SAIHATE LINES
6つのキーコンセプト

「研究者と音楽家のコラボレーション」

旅をしながら作品(論文・音楽)を生みだす研究者と音楽家が交わる世界を見てみたい。

観光×メディア研究の更新へ

研究発表、音楽ライブ、グラフィックレコーディング、サウンドスケープを組み合わせることで、未だかつてない観光×メディア研究のかたちを表現したい。

研究者がつくる新たなフェス

個人化する社会を調査・研究する前に、自らの足場である大学の場を繋ぎ直すことから始めたい。

北大とまちが遭遇する

地下鉄北18条駅を出たら、そこはSAIHATE LINESの入場ゲート。北大とまちをつなげることで、未知の参加者同士が意図せず出会ってしまう場所をつくりたい。

北大のオルタナティブな歴史を継承する

学問領域や教員・学生・市民の垣根を越えて共に学び・教え合った「遠友夜学校」の歴史を継承したい。

野生の北大を取り戻す

原生林を有する自然環境に恵まれた北大を、外にいるクリエイター・市民の視点から捉え直し、北大の新たな活用のあり方を提案したい。

参考文献
  • 東浩紀(2017)『ゲンロン0 観光客の哲学』株式会社ゲンロン
  • Ingold,T(2007).Lines: A Brief History: Routledge.[工藤晋訳(2014)『ラインズ―線の文化史』左右社]
  • 藤田正一(2013)『日本のオールターナティブ―クラークが種を蒔き、北大の前身、札幌農学校が育んだ清き精神』銀の鈴社
  • 若林幹夫(2010)『〈時と場〉の変容―「サイバー都市」は存在するか?』NTT出版
  • 渡辺保史(2017『Designing Ours―「自分たち事」のデザイン』Designing Ours 出版世話人会